伸びるシェフ

今では屈指の名店と言われる「石川」が
産声を上げたときのあの記憶は鮮烈だ。

先ず、出された料理の繊細さに驚いた。
初めて訪ねた日の料理は鱧からだった。
吉兆の鱧にもないその舌の上での感触。
当然骨はすべて抜いてあるのだが、その
抜き方が並みと違うらしく、舌の上で
溶けるような包丁の入れ方なのだった。
彼曰く、
「漁師から教わったやり方なんです」と。

次に出てきたのが「のどぐろ」。
その上質な白身には脂が全体に混在し、
独特の焼き上がりは正に絵画のようだった。

そして、彼はその経歴にあるように、
器に造詣が深く、その蘊蓄が実に楽しい。
魯山人ではないが、やはり料理と器は
切っても切れない関係で、のどぐろの皮に
合った備前焼きの器に時間を忘れた。

彼が渡り歩いた料理屋に名店はない。
それが彼の素朴さの原点なのだと思う。
坊主頭で腰の低い応対が人を惹きつける。

ところが、こんなシェフを大量に育てている
大型店があるから驚いてしまう。
あの「うかい亭」がそれだ。

うかい亭と言えば、「小池さん」
今では定年で現場を離れてしまったが、
電話をすればすぐに顔を出してくれる。

銀座にスカウトされた「中村さん」
あの人懐っこい笑顔が忘れられない。
この二人はうかい亭の双璧だった。

うかい亭の凄さはこんなレベルの高い人が
次から次へと現れるところだろう。
伸びる店には凄い人柄の人が多いが、
多分、教育システムが完璧なのだろう。

同じ事業家としては実に興味があるが、
私にはそんな達人を育てられそうにはない。
他人の店を褒めている方が向いている。

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