庵文化(6)

「俺はもう庵生活同然の毎日だよ」
私のブログを読んだ鎌倉に住む友人がそう電話をしてきた。
「暇さえあれば近くに借りた畑で野菜作りをしているよ」

なるほど、完全ではないが庵生活のような毎日だ。
海や富士山は見えないが、かなりの田舎生活を実現している。
庵文化は人間が一番ほっとできる生活形態の原点なのだ。
だから、余裕が出来ると多くの人がその生活に憧れを抱く。
特に、一線で厳しいビジネス社会を生き抜いた人ほどそうなる。

天羽マリーンヒルで富士山と海をみながら
「リステランテ マキ」を経営している牧さんもそんな一人だ。
彼は50代に入るとすぐに、勧奨退職に応じた。

退職後5年間は東京で庵生活への準備をしながら
元の会社のコンサルティングを続けた。
彼も「富士と海」を中心に庵を探し
この地にたどり着いた。

彼は庵としてスウェーデンハウスをこの地に建てた。
建築費はかなりかかるが、夏は涼しく冬暖かい理想の家だ。
彼の庵生活が成功している証拠はその顔に表れていた。

「店が休みの日は釣りをしています」
と言って、釣りをしている船上での写真を出す。
「なんですか、こんな幸せそうな男の写真は見たことがない」
と、私は思わず叫んでしまった。
鴨川自然王国で会った人たちの顔とは全く違う顔だった。
規則やしばりが全くないのがその原因なのか。

「それにしてもこのサラダは美味しいですね」
「外国生活で覚えた秘伝のドレッシングを使っていますから」
そう言って、冷蔵庫から出したビンの中のドレッシングは
なんと酢と油が全く分離していない。

この天羽マリーンヒルには約150人が家を建てている。
牧さんのように完全に移住してきた人が50人
別荘のように使っている人が100人だという。
その100人の中で、週末毎に来る人の割合が半分くらいか。

「牧さん、お隣の豪邸は誰が?」
「あれは大きな病院の院長さんの別荘ですよ」
彼もよく週末のパーティに招待されるというその家には
週末になると院長はもちろん、その関係者が大勢やってくるらしい。

彼はもうすっかりこの地で彼の世界を築いている。

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