AD200

「家主」が「大家さま」と言われた時代、
私はまだ独立したばかりで30代だった。
その頃は、用事があって不動産屋に行くと、
店員さんは笑顔に揉み手で迎えてくれた。

当時、借主が決まると家主は礼金を貰えた。
それが何時の頃か、この家主に来る筈の礼金を、
仲介業者が取ってしまうようになった。

この6月に、家賃10万の部屋を賃貸に出した。
その後、入居者が決まったのは7月半ばで、
仲介業者から計算書のFAXが届いた。

8月分前家賃         100,000
AD100(以前の礼金のこと)  100,000
7月分日割り家賃はフリーレント(ただ貸し)

要するに、家主が入居者から貰う筈の礼金は
AD100に名前を変えて、業者に行き、
7月分の家賃はサービスで無料にしたので、
私のお金は前家賃の10万だけになっていた。

10年前なら、25万円全てが私のものだった。
それが今では、人口が減って借主が減り、
家主はいじめられてばかりいるのだ。

それでも、私はまだ恵まれている。
昔建てた建物でもう十分に儲けたから。
だから、今回のような場合でも素直に嬉しい。

可哀想なのは、最近この世界に入った人たち。
部屋の化粧直し代で当てにしていた礼金が、
貸主に入らなくなってしまったのだから。
これが今の悲しい現実なのだが、更に怖い話が。

先日、友人の不動産投資家から相談の電話が。
「ADを200と言ってきたんだけど、
どうすればいいでしょうか」という内容だった。

不動産屋に払う手数料の分け方は
元付(貸主が頼んだ業者)は礼金から1か月分
客付(入居者側の業者)は入居者から1か月分
これが今の業者の分け前事情だったのが・・・

最近、客を案内する歩合給社員にこっそりと
更に小遣いを1ヶ月上げる賢い家主が現れて、
そこから先に借主が決まってしまうので、
なんとAD200という物件が出始めたのだ。
(ADとはadvertisement広告の略語)

要するに、貸主に入るべき前家賃分を
営業社員に上げてしまうというのだ。
だから、今は、めでたく借主が決まっても、
貸主にはもう一銭も入ってこない。

そういう訳で、おっとりとした貸主の部屋は
いつまで経っても空き部屋というわけ。
家賃も値下がりしているときに、これは痛い。
もう、貸主には店員の笑顔も揉み手もないし、
部屋が空く度に寿命がどんどん縮まっていく。

それでも、この人口減少の時代に
あなたはアパートを建てますか?

In an era of falling birthrates,
an aging society, and a shrinking population,
the real estate investment becomes more and more difficult.

植木屋さんで至福の時を過ごす

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