建物の汚れには人一倍神経を使う。
建築での究極の目標は「汚れない建物」
その意味で、サイディング材の進歩は目ざましく、
特にプレハブメーカーの製品には目を見張る。
その点、注文住宅の汚れ対策はかなり遅れている。
最終的には、やってみなければ分からないのが実情。
そして、典型的な失敗作が我がPマンションの外壁。
1階と一部2階の外壁が汚れだしたのは、
移り住んで1年もしない頃だった。
3年も経ったころにはあちこちが汚れ放題。
水切りを付けなかったという完全な設計ミス。
7年目に、理事会の中に修繕委員会を立ち上げ、
外壁の汚れ対策の研究を開始。
5年後に3通りの実験結果をまとめ、
大規模修繕の見積りにそれを盛り込んだ。
この時点で、我々から既製品の提案はしなかった。
大規模修繕工事の開始から3ヶ月して、
現場監督のHさんから汚れ対策について提案が。
「素晴らしい既製品を見つけたので見て欲しい」と。
1級建築士で建設一筋45年の大ベテラン。
彼にそれを使った現場をいくつか案内され、
「これならいいでしょう」とOKを出した。
「これだと当社は300万赤字になるんですが」
そう言って彼が泣きついてきたが、
「それはそれで見積り通りやって欲しい」と拝み倒す。
もちろん、追加工事のときに多少の余裕をあげた。
そして、最終的に、トータルとしては彼の顔を立てた。
水切り設置から10ヶ月。
素晴らしい結果で、外壁を見るたびに感激している。
年が明けて、電話で彼にその結果を報告すると、
「高木さん、僕、11月に体調を崩したんです」
なんと次に出た言葉に私が絶句。
「すい臓癌で・・・」
翌日すぐに見舞いに行くと
本当にやせ細って、見る影もない。
運命とは言え、涙が止まらない。
「いい物を作りたい」と徹夜で語り合った戦友。
偶然にも同い年の彼、回復を心から願っている。