否定型人間

「高木さん、今日また疫病神が来たんですよ」
何百回と足を運んだレストランのオーナーシェフが嘆く。
「帰れとも言えないし、彼が来た後にろくなことがないんですよ」
聞けば、その客は全ての話が否定から始まると言う。
「テニスやってるの」と聞くから、
「相変わらず週3回はやっていますよ」と答えたら、
「こんなクソ暑いのによくやるね、外にやることないの?」と、
驚くような言葉が返ってきて、二の句が告げなかったという。
「この後、ムカついて仕事の調子が狂い指を切ってしまってね」とこぼす。
兎にも角にも、彼が来た後には凶事ばかりが起こるのだそうだ。
「凄いスタミナだね」とか言ってくれれば指を切らずに済んだのにとむくれる。
「外にもそんな話があるの?」
「今年の正月休みに赤城山へ行った話をしたときも同じだったんです」
「どんな風に?」
「あんな何にもないところへよく行くね」と。
「それでその後に起きた凶事は?」
「翌日買出しのとき、その客を思い出した途端に車輪を側溝に落としたんです」
聞けば聞くほど、正真正銘の疫病神である。
確かに、私の周りにもそんな言葉ばかりを返してくる類の人間がいる。
更にシェフが続ける。
50代の客で、仕事が忙しく徹夜ばかりしていると話すから、
「そういえば、胃をやられているんじゃない、息が臭いよ」と、
客が気付いていないといけないからとバカ正直なことを言ったら、
二度とその客が来なくなったと、今度はシェフの失敗談。
人間、かなりの身内でもない限り、ネガティブなことを話してはいけないのだ。
相手のことが心配でも、それが本当でも、言ってあげた方がいいと思っても、
気分を壊すようなネガティブなことは言うべきではないと改めて思い知らされた。

葉山のラボンヌシェール:夏限定の桃のビシソワーズ。
桃の上品な香りとミントの香りにうっとりと我を忘れる。

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