「ロマンを語る人に融資はできない」
書類を取りに来た銀行の支店長が語気を強めてそう語る。
私は、こんな風に物をはっきりと断言するタイプの人間が好きだ。
「ロマンは生きるためのモチベーションかもしれないが、
ロマンを多く語る人が一番失敗しやすい事業家です」
一瞬そんなもんかとたじろぐ。
銀行の融資先には不動産関係者が多い。
そんな彼らの融資依頼の事業計画にはロマンは禁物で、
必要なのは、徹底した分析力であり、予見力なのだそうだ。
「東京の3Aに土地が欲しい」
そう言って土地を買いたがる地方出身の投資家を例に挙げ、
「これこそが正に一番怖い投資スタンスなんです」と。
※3A=青山、赤坂、麻布
地方から出てきた人間には
何の根拠も無く3Aの土地を好む人間が多いのだそうだ。
しかし、そんな東京ロマンで利回りの低い土地を買っても、
何の意味もなく、実に危険なことだと彼は言う。
最初、この言葉を聞いたときは大ショックだった。
起業家や経営者にはロマンチストが多い。
なのに、そのロマンが事業の敵だとは・・・
そういえば、希望的観測に基づいて事業を語る仲間は、
その多くが失敗者として私の周りから消えていったのは事実だ。
成功している友人の多くは、利回り最優先で冷酷なほど厳しい投資をしている。
そして、「藁しべ長者」のように、
5年サイクルでより利回りのいい物件へと乗り換えていく。
その徹底したやり方には実に頭が下がる。
「必ずいつかは値上がりする」なんて希望的観測でなく、
「今、どのくらい稼ぐ物件か」を徹底的に追及するのが本当の投資だという。
余裕の出来た今日この頃、この点で、少し私の考え方も緩んでいた。
その意味で、今日のこの支店長との会話は本当に有意義だった。
改めて、自分の持つ物件を洗いなおして、
「藁しべ長者」の如く、より優良な物件へと乗り換えていかねばならない。