撤退価格

「40年間も不動産業を生業としてほとんど失敗が無いのが不思議だ」
半世紀も友人関係が続いている頭脳明晰な社長が何度も私に言う言葉だ。
自分ではあまり意識したことはなかったが、そういえばそうかも知れない。
塾を売るとき、かなりの土地建物(教室)も一緒にその会社に買ってもらった。
不思議と残した土地建物は今でもフル稼働して私の生計を助けている。
反して、売った土地建物はそのほとんどが廃墟で全く使われていない。
その違いを生む最大の原因は「土地への愛情」とそこから育つ「土地勘」
不動産を働かせるには、その土地に対する並々ならぬ愛情が要る。
愛情が土地建物を育て、育った土地建物が利益を生んでくれる。
そうした作業の中から土地勘も生まれ、売るか残すかの判断力が育つ。
塾を買った会社は20年間、土地建物に愛情を注いだ様子はなかった。
こうして育った土地勘には撤退価格判断という重要な事業センスも含まれる。
駐車場業もそうだが、一つの事業の美味しい期間は長くても10年。
その後には違う業種に移るか売却という撤退の道しかない。
その結論が売却となったとき、売値が買値を上回ることが重要だ。
つまり、撤退価格が利益を生むかどうかの判断力が要求される。
「この駐車場は近くに病院があるから儲かりますよ」
この話が本当だとしても、状況が変わることも考えねばならない。
例えば、その病院が患者用の駐車場を2倍に拡張することだってあり得る。
買ってから3年間、もし年率10%で月150万円儲けたとしても、
とたんに売上げが減少して、利益がゼロになったらどうするか?
慌てて売り抜けようとしてその土地を売りに出しても、
もしそこで1億円損したら、3年間の利益は吹っ飛んでしまい、
さらに5千万前後の損をすることになる。
つまり、買うときの「儲けの額」に目がくらんではいけない。
事業には必ず「終わり」、言い換えれば「撤退」があるのだ。
そのときの撤退価格を十分に計算して購入の是非を判断する必要がある。
この撤退価格という発想が私の仕事の失敗を回避させてきたような気がする。
つまり、私の土地建物への愛情が人並み以上だということか。

明月院でこんなに美しい菖蒲を鑑賞できるとは・・・

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