マンションの理事会は人間力を磨くには最適な道場だ。
それなのに、授業料はタダである。
向上心のある人は志願してでも理事になるべきだ。
古希を迎えても向上心に溢れた私は、
5つものマンションで、理事や変な名前の役員を務めている。
万年理事長(34年間)、万年理事長補佐、万年修繕委員、
万年顧問、万年理事
万年理事長のマンションからは年間10万円の活動経費を預かっている。
このマンションは、管理費は隣のマンションの半額なのに、
その建物としての美しさは桁違いに優れている。
管理方法の優劣を一目で確かめられる最高の事例だと自負している。
万年理事長補佐のCマンションからは3万円の経費を頂いているが、
その他からは全く頂いていない。
Cマンションでは、理事長補佐になって2年が経つが、
それまでの理事さんが5年間も実施できなかった修繕をやり遂げた。
本業で稼いでいるから、どのマンションからも報酬を欲しいとは思わない。
でも、必要経費くらいは出してもらいたい。
この道場が街の町内会とか自治会と違うのは、
管理組合の主たる目的が財産保全であり、
その遂行のためにお金が絡んでいるという点だ。
そして、このお金を下手に使えば訴えられることもあるのだが、
この「訴えられる」という危機意識を持つ理事さんは少ない。
例えば、竣工時に事務所使用可の規約のあったマンションで、
後から事務所使用不可の新規約を作ってしまったばかりに、
住民から訴えられて400万円も損害賠償させられた管理組合があった。
「多数決で規約を変更できる」という小学生のような知識だけで、
不利益を蒙る人の存在を予知できなかった浅はかさが原因だった。
先日のPマンションの理事会で住人に人気のある理事さんが言った。
「大規模修繕のときに各戸の玄関ドアの色も変えてしまおう」
皆、異口同音に賛成したが、私が待ったをかけた。
「それは総会決議事項だから、理事会では決められません」
皆不思議そうな顔をして、管理会社のフロントの顔を見た。
「その通りです、ここで決めたら損害賠償請求される可能性すらあります」
能天気な理事さんたちは、キョトンとしている。
彼らには、修繕・改善と意匠変更の違いが分かっていないのだ。
だいたい、区分所有法など読んだこともない人が、
輪番制で理事になってきて、謙虚さもなく意見を言うのだから、
裁判沙汰があちこちで起きるのが当たり前で、危うくて見ていられない。
管理組合道場で10年も揉まれたら人間誰でも一人前になれる。