不動産関連図書の選び方、読み方

「上手なアパート経営」とか「ワンルームマンション投資」
こんな本が書店の本棚の一角を埋め尽くし、似た情報がネット上にも百花繚乱。
本屋でそんな本を立ち読みし、その後その本を購入したとしても、
始めから全てを鵜呑みにすることだけは絶対に避けるべきだ。
「本当かな?」くらいの気持ちで疑い深く読み進んでいって欲しい。
もちろん、土地活用の初心者には、景気のいい物語は魅力的だ。
「怖い」「気をつけよう」「騙されるな」という本よりは
「儲かる」「楽に金儲け」という本の方に手が伸びる。
でも、だからこそ、本選びと本の読み方には十分に注意を払って欲しい。
埼玉のあの女性不動産投資家が書いた本のタイトルにも
「専業主婦が年収一億」という魅力的な言葉が踊っている。
しかし、ボロ物件をあれだけ所有したら普通の人間はノイローゼになる筈。
平均的な人間は、賃借人からの頻繁な電話に怯える毎日にはとても耐えられない。
「経験してみなければ分からない」なんて軽々しい問題ではないと思う。
だから、並みの精神の持ち主は彼女の言う「カリスマ大家」を目指すべきではない。
もちろん、彼女自身はクレーム処理をそれほど苦にはしていないのかも知れない。
その意味では、並でない才能の持ち主で、それが故に、
「カリスマ大家」と呼ばれるまでになったのだろう・・・
私の周りには不動産貸付業者、所謂大家さんが多く、
そんなこともあって、不動産関連の本を私自身もよく読む。
そんなある日、またまた「家賃収入1億円」という題の本が目に入った。
家賃収入が1億円というのはカリスマ大家になるためのハードルなのだろうか。
しかし、スケールメリットもないので、この1億には何の価値も意味も無い。
大切なのは確実なキャッシュフローだということを肝に銘じておこう。
それはともかく、最初に「売れるだろうなー、このタイトルなら」と思った。
しかし、普通の人なら羨ましく思うこのタイトルに疑問が湧いた。
なぜなら、「5年で達成」という副題がついていたから。
大家業の成功ポイントは借入開始と借入金完済のサイクル。
不景気で2〜3件くらい買い、好景気に1件売るのが賃貸業の王道。
これを繰り返しながら無借金物件を増やしていく。
だから、5年ではほとんどが借金漬け物件ばかりではと怖い推測。
だとすれば、予想外の大きな景気変動の波がきたら、ひとたまりも無い。
横須賀でも、悪乗りして米軍相手の賃貸物件を買いすぎ、
最近、空室率の急激な悪化に見舞われ、倒産した会社が出た。
著者の仕事の内容を勝手にシュミレーションすると地獄の様子が見えてくる。
1億円の家賃を稼ぐのに、手持ち1千万を諸費用に使い、
物件購入費は全額借入と仮定すると利回り10%なら、借入額は10億円。
20年ローンで年利2.5%とすると元利共の返済額は約月額530万円。
1所帯15坪の部屋を10万円で貸すマンションなら83所帯の建物。
この規模だと、月額修繕引当金は15坪×83世帯×500円で約62万円。
月額管理委託費が830万×5%=約42万円。諸税の合計が月額150万円。
その他の空室引当金を含む運営諸経費を5%として月62万円を見ておく。
さー、いよいよ実質手取り額を計算してみよう。
収入830万−(530+62+150+62)=24万円。
何と手元に残るお金は月額24万円、これでは家族4人が暮らせない。
ましてや、ちょっと空室が増えたらひとたまりもない。
だから、親から何も相続していない普通の人が挑戦できる仕事ではない。
不動産だけで財を成すにはこんなスピードを求めてはいけないのだ。
ましてや、しっかりとした本業のない普通の人がこんなやり方をしてはいけない。
本業と賃貸業を両輪にして、景気の波を見ながら確実に資産を増やすのが無難。
面倒かもしれないが、これが優雅な人生を確実に手に入れる方法だと信じている。
でも、こんなまじめなお話は余り面白くはない。
百歩譲って、この本の内容が本当でも、それが皆さんにお奨めかどうかとは別問題。
もちろん、この本には正しいヒントになることが数多く書いてある。
しかし、恐らく真似することにそれほどの価値があるとは思えない。
だから、この本を読む人はこのような事を前提に読み進んでいく必要がある。
本選びのポイントは
? 著者の関連ビジネスだけを薦める内容の本は信じきらないこと。
例えば、ワンルームマンション業者の書いた「ワンルームマンション投資の薦め」
建売工務店の薦める「アパート経営で老後の安定」
仲介手数料を稼ぎたい不動産業者の「土地活用で優雅な生活」などなど・・・
そんな人の薦める企画に乗るときは、本当に慎重になって欲しい。
? 危険について何も書いてない本は信じないことだ。
例えば、マンション投資なら20年後までの収支予測を考えさせる内容でありたい。
だから、長い間には景気の悪いときもあって空室率が20%になるかもしれないとか、
マンションだけでなくアパートにも長期修繕計画を作成し、預金をしておくようにとか、
こんな面白くないことにも触れている本が良書だ。
? 著者の成功談が全てのような本も危険だ。
不動産の成功にはかなり特殊性がある。
例えば、横須賀で成功する法則が茨城には当てはまらないということ。
最後に、品格のない成功者の本や講演の内容には疑いを抱いて欲しい。
講演会で、「もう成功しなくていい、こんな人にはなりたくない」
そう感じて寂しく東京から横浜に帰ってきたことが何度あったことか。
「金が全て」、「勝てば官軍」のような一時的な成功者にはなりたくない。
そんな人は絶対にいい死に目には会えないと信じているから。

賃貸ビジネスには芸術的な楽しみもある。

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不動産関連図書の選び方、読み方 への2件のフィードバック

  1. ekatuki のコメント:

    地元の不動産屋いわく表面利回りでマンションに手出したら地獄見るよと言われました。
    んー確かに・・安いマンションは入れば利回りが良いがなぜや安いかを全く考えずに手を出すところでした。
    そういえば、これで失敗した!という本ってありませんよね。
    貸すばかりでなく好景気に売るのも手なのですね。

  2. 高木 のコメント:

    「こうして失敗した」という本は売れそうですね。
    ちょっと違うけど、「無知は損」という話を書いてみました。近いうちに載せます。
    時間をかけてあちこちから失敗例を集めてみますね。
    参考になりそうですよね。

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