老い支度(20)

諦め力
30代の頃だったか、幼稚園の運動会に行った。
クラス別対抗徒競走があり、メンバー不足だから出てくれという。
足には自信があったので、アンカーを引き受けた。
百メートルを走るのだが、50メートルくらいから足が思うように前に出ない。
思いもよらないことだったが、息を切らせて何とか完走した。
しかし、ゴール後にバッタリ、酸欠状態で体中に湿疹が。
初めての体験だから、本当に「死ぬのでは・・・」と思った。
40代はウィンドサーフィンに没頭。
グアムやサイパンまで行ってやることもあった。
しかし、台風の海でウェーブライディングを楽しんだ日の夜、
強烈な腰痛に襲われ、「殺せ」というほどの痛みを経験。
年齢がちょうど50歳のときの出来事だった。
持病のせいか、還暦を過ぎるとゴルフ場での上りで息が切れた。
山の斜面に飛んだボールを捜すのがとても億劫になった。
こんな調子だから、ゴルフも七十位までと思っている。
そして、「上手に年をとる」ということは「潔く諦める」ことだと悟った。
若い頃は、諦めることが幸せに繋がるなんて思いもよらなかったが・・・
人生とは数々の諦めを受け入れることの歴史だ。
40代で全力疾走を諦めた、転ぶといけないから。
50代でウィンドサーフィンを諦めた、もうあの腰痛は嫌だから。
60代で夜の生活を諦める、無理は体に悪いから。
70でゴルフを諦める、首によくないから。
74で運転を諦める、人の迷惑になるから。
76で外国旅行を諦める、ウィルスを持ち込むといけないから。 
78でマージャンを諦める、腰によくないから。
80で生きることを諦める、きりがいいから。
森光子や日野原医師のような怪物の話は聞きたくない。
あんな100万人に一人の話しなんぞ私とは無縁だ、
人並みに脳萎縮の始まった私にはあんな素敵な長生きは望めない。
だからガンの定期検診など絶対に受けないと決めている。
頼近美津子さんのように最初のガンでさよならだ。
70過ぎてスキーやゴルフが出来るなんてことも羨ましくない。
人より5年長くスキーやゴルフをやるために必死に鍛錬すること自体が嫌だ。
定年後に世界中を旅することにもそれほどの意義は感じない。
「金と遊びと命はほどほどがいい」
年をとっているのに金と地位にしがみついている人も多い。
漢検協会の前理事長さんのようにはなりたくない。
盧武鉉前大統領(62)のように山で自殺したくない。
楽しい老後を送りたければ、この諦め力を身につけよう。
また、諦め力のある人には美しい笑顔の人が多い。
ひっそりと人の役に立てるだけの老後で十分幸せだ。
今日も一人、近くの公園の草むしりをしてきた。
そう、一つ何かを諦めると次のワクワクする世界が手に入る。

箱根の玉村豊男ライフアートミュージアム
彼の生き方が好きだ。

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