客を選ぶ

数ヶ月間足しげく通った店に行かなくなった。
味が落ちたのではなく、店での話が合わないのだ。
そこに座ると5分で空しくなってしまう。

テレビのバラエティ番組が醸し出すあの空疎な感じと似ている。
何をゲラゲラ笑っているのかがよく分からない。
そして同じ言葉が何度も繰り返される。
「まじかよ」なんて若者言葉が何十回と出てくる。
それが何とも我慢できない。

これって、私が歳をとったのか、
それとも日本の若者の頭が可笑しくなってきているのか。
最初は「若者文化」を知るために耐えるべきだと思った。
しかし、もうだめだと諦めてその店に行くのをやめた。
あの彼の料理は食べたいのだけれど・・・

ならば何故、海老蔵はあんな店に行ったのか。
彼にぴったりの楽しい店だったのか。
それとも芸域を広げるための一環だったのか。

それにしても、客は店を選べるが店は客を選べないのか。
「この客のせいで常連が減っていく、上客が来てくれない」
そう思ってもその客に「来るな」とは言えないのか。

店を開くって本当に大変なことだと思う。
新橋でスナック「舞」をやっているときもそうだった。
毎日のように来てくれる客がいた。
売上げ的には助かったが、困ることが一つあった。
店の従業員にしつこく付きまとった。
だから従業員が辞めてしまう、その損失は大きかった。

その時以来、二度とこの手の店はやるまいと心に誓った。
思えば、あの頃は二十歳そこそこの大学生だった。
あれから半世紀、セキュリティの仕事でも客を選んでいる。
例えば、最初に値段のことにしつこい客はこちらからお断りする。
生意気な客の注文も受け付けない。

お客様は神様ではない。
だから私は謙虚な客になるべく努力している。

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