終末の風景

還暦も幸せでした
古希も元気でした
喜寿も無事でした
傘寿も矍鑠でした

あんな素敵な笑顔で語っていたのに
あんな素敵な料理を作っていたのに
あんな素敵なブログを書いてたのに

米寿になったあの人は
明日行く銀行の印鑑の場所を忘れ
今食べたばかりの寿司ねたを忘れ
昨日何度も念を押した約束を忘れ
やってもらったこともすべて忘れ

際限もなく欲望と卑屈の塊で
「あんたは冷たい」と人を責め
「もう死にたいわ」と愚痴を言い
「うるさいわね」と電話を切る

ベッドの隅には汚れた下着
洗面台には異臭の入れ歯
トイレの便器は見るも無残

長寿めでたしなんて誰が決めたのか
こんな現実を見て幸せだと思えるか
迷惑振り撒くだけの存在じゃないか
人はなぜ長生きなんてしたいのか?

現役のピアニスト室井さん
白寿だというのに、美しく
素敵な演奏が人を魅了し
長寿に夢を添えてくれる

神様! あー神様      
室井さんだけには
素敵な最期をあげてください
朝日のそそぐピアノの前で
眠るように逝かせてあげたい
彼女の最後の生き様で
生きる希望の灯がともる
七転八倒、そんな最期は見たくない
「あー、貴方もですか」は言いたくない

神様! あー神様 
今までに、たくさんの感謝状を頂きました
  これを免罪符にしてください
 これからも 沢山徳を積みますから
 どうか、どうか、素敵な終末を
   皆に、私に、お恵みください。

「善人なをもて往生をとぐ、いはんや悪人をや」
   (歎異抄より)

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