誰もが「優しい息子」という男の母親殺し。
デイサービスや訪問介護の従業員によると、
事件当時、母親は週5日の訪問介護と
週3日のデイサービスを受けていた。
息子は食事や洗濯をすべて担い、
母親がデイサービスから帰ってくると
必ず玄関前で出迎え、手を引いて家の中に
入っていたという。
公判に証人出廷した複数の介護関係者は
「心から母親を大切にしていた」と口を揃えた。
母親は施設の職員に「息子が優しいから、
この年まで楽しく過ごせている」と語った.
ただ「母の面倒を見ながら、仕事もしている。
外から見ている以上に大変なつらさ、しんどさ、
苦労があっただろうと思う」と、周囲の多くが
長男にかかる負担の大きさを心配し、
施設への入所を勧めたこともあった。
それでも男は「施設に入れるの可哀想」と語った、
「もう少し頑張ってみる」と話す姿に、
誰もが母親への深い愛情を感じていた。
だが、そんな悲壮な決意とは裏腹に、
介護生活は男の心身を着実に追い込んでいった。
貯金は徐々になくなっていった。
よくある優しさゆえの地獄行きに思えたが、
誰もがそれ以上には手を差し伸べなかった。
さらに、今年に入って彼自身の体調が悪くなり、
殺害前の6月には腹痛のために
バイトも辞めざるを得なかった。
自宅の固定資産税(年間約6万7千円)も
数年間にわたり滞納、預金も差し押さえられた。
自宅売却も考えたが、認知症で判断能力を
失っていた母親の反対などもあり、
結局うまくいかなかった。
貧困と出口の見えない介護生活。
そして自身の体調悪化。「殺せ」と叫ぶ
母の姿を前に悲しい覚悟が決まった.
小刀(刃渡り約13センチ)を持ち出し、
居間の椅子にいた母親の前に立ちはだかった。
見上げた母親は何も言わなかった。
長男はそのまま心臓を狙い小刀を突き刺した。
母親は顔をしかめたがほどなくぐったりして、
もう何もしゃべらなくなった。
自分の胸にも小刀を押し当てた。
だが「勇気がなく、力が入らなかった」
一晩中、死のうともがいたが無理だった。
無人の卓上から警察に電話をかけた。
「母を殺(あや)めました。
死のうと思ったが、死にきれなかった」
逮捕翌日の7月9日、長男は留置場で
ごはんを一口食べると突然血を吐いて倒れ、
病院に、出血性十二指腸潰瘍だった。
公判で、検察が懲役6年を求刑したのに対し、
弁護側は介護の苦労や自首したことを踏まえ
執行猶予付きの判決を求めた。
しかし、大阪地裁が下した判決は
懲役3年6月の実刑。
「殺意は強固で執行猶予を付すべき
事案ではない」とした。
長男はただ小さくうなずいただけだった。
私は、ひどい判決だと思った。
介護経験がない人に介護の辛さは分からない。
裁判官こそ鬼ではないか思えてならなかった。
これが介護地獄の実態だ。
ただ長く生きればお目出たいという風潮の
陰に地獄があることをもう一度考えるべきだ。
だから、私は健康診断を受けたことがない。
勿論、がん検診も絶対に受けない。
75過ぎのガンはお迎えだと思うから。