老い支度(29)

大悟徹底 
50代に会社を潰した高校時代の友人。
やつれた顔を想像しながら待ち合わせのレストランに。
ところが、そこには弥勒菩薩のような穏やかな顔の男が座っている。
挨拶もそこそこに、13年前の倒産劇の話だ。
「どうやって、蘇ったんだ?」
「樹海で悟ったんだよ、それからは怖いものがなくなってね」
「何だ、その悟りっていうのは?」
負債3億で倒産し、債権者から逃れて樹海に行った、死ぬつもりで。
富岳風穴バス停から10分ほど森の中の遊歩道を歩いて、そこで道から外れた。
大きな溶岩洞窟の前で横になり、己の生涯を振り返り、涙しながら横になった。
明け方、朦朧としている彼に仏様が話しかけたという、
「あと12キロ痩せてから、またここに来なさい」と。
それから彼は東京に戻って、事業を清算し、新たな挑戦を始めた。
そのときはまだ8キロしか痩せていなかったという。
残り4キロの命を残して、彼の事業は再び軌道に乗った。
今は以前のようには人を使わず、小さくしかし効率よく儲けて、
既に、収入も倒産以前の2倍となり、体重も元に戻り、
前以上に体調がいいという。
「人間、12キロ分の体力を使えば、かなりのことが出来る。
自殺する前に12キロ分エネルギーを使ったら、死のほとんどは避けられるだろう。
人は頭で悩み過ぎるんだね。今は、あの仏様に心から感謝している」
そう語る彼の顔は本当に穏やかそのものだ。
「死ぬ気でやれば」なんて曖昧模糊とした言葉はずっと嫌いだった。
「12キロ痩せなければ死ぬ資格がない」とは仏様はやっぱりすごい。
この悟りの話には、我が生涯で一番感動した。

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老い支度(29) への2件のフィードバック

  1. ekatuki のコメント:

    自殺までは考えませんでしたがもらい火で14キロ痩せました とほほ。
     やはり窮地に追い込まれれば追い込まれるほど独立したての15年前と同じように本領を発揮できました◎

  2. 匿名 のコメント:

    そうですか、そんな地獄からの生還もあるんですね。
    いろいろな生還仲間が集まったら、さぞ楽しい会になりそう。
    またのコメントをよろしく。

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