老い支度(27)

判断力の衰え(1)
汗水たらして尽くしてくれる身内
甘い言葉で味方ぶる優しい他人
どちらが真に大切か、そんなことは一目瞭然。
身内が使う言葉には辛さが混じることもある、親身になってしまうから。
他人が使う言葉には心地いいことばかりだよ、嘘八百で埋めるから。
落ち着いて、落ち着いて、その厳しさは優しさなんだよ。
落ち着いて、落ち着いて、その甘言には魂胆があるんだよ。
でも、騙されるとは思わずに、「言葉だけの人」に耳が向く。
その甘いささやきが何時しか家庭に不協和音を招いている。
それが後で取り返しのつかない不幸へと発展したら、長い老後はぼろぼろだ。
特に老後の辛いとき、痛いとき、寂しいとき、人は騙されやすくなる。
お金持ちの一人住まいや二人住まい、小金持ちの一人住まいや二人住まい
特に、特に、こんな人には下心のある怖い人たちがそっと忍び寄る。
そう、甘い言葉の限りを尽くして。
家計を支える同居の息子は朝早く仕事に出る。
「あれには気をつけろ、これはするな」と厳しい言葉を言い残し。
昼間、残された年寄りに知り合いの不動産屋から優しい電話が入る。
「大丈夫? 買い物や何かの手続きなんか私がやってあげるわよ」と。
そして、数ヶ月。
ちょっとした買い物を頼んだりする仲になっている。
その年寄りも気を許し、何時しか年金の引き出しなんかも頼むようになる。
そしてまた数ヶ月。
大切な家の権利書の在り処や実印の場所まで探られてしまう。
そして、いつの間にか、屋敷が他人の手に渡る。
息子が気付いたときにはもうどうにもならない。
こんな悲劇が日本中のあちこちで起きている。
「自分は年寄りなんかじゃない」と思いたい気持ちはよく分かる。
「自分はそんな馬鹿じゃない」と信じたい気持ちはよく分かる。
でも、辛い、痛い、寂しい人たちは、もう正しく物は見れないんだよ。
家族の絆をずたずたにする善意の悪魔も息をひめて狙っている。
遠くに住む親戚や旧友なんかもまた怖い、不動産屋だけじゃない、怖いのは。
電話で使うその甘い言葉が相手の家庭に不和を引き起こしているなんて
その電話をかけた本人さえ気付いていないこともある、それが未必の故意。
君の判断力が減退したなんて私だって思いたくない。
でも、だから、周りは気をつけないといけない。
こうして、「痛い辛いの年寄り」が悪魔の標的になっていることを。
今、今すぐだよ、己の老化に気付き、その更なる先に備えるべきは。
誰もがいつかは恍惚の人になるかも知れないのだから。
運よく上手に消えられることばかりを信じてはいけない。

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